1回の活動電位で出入りするイオンの量

どの医学系の大学でも、生理学の講義の2,3回目くらいは興奮性細胞の活動電位がどうやって発生するかだ。

学生が質問してきた。「活動電位が発生するとNaイオンが細胞内に蓄積する。その量はどのくらいだ?量が多かったらまずいじゃん。」

ごもっともな、良い質問だ。すでに2回目の講義でNa-Kポンプの説明を行っていたから、この質問に対して返事ができる。「大した量ではないし、ポンプで排出されるんだよ」だ。

しかし、実際に計算したことなぞなかったから「大した量」の根拠がない。細胞内のKイオンの量に比べ1回の活動電位で細胞外に出て行くKイオンの量なぞ、ものすごく少ないというのは当たりまえだと思っていたからだ。それでもオーダー位は計算して見る価値がある。

細胞外から入り込むNaについては、一個の細胞に対して細胞外の溶液の量は無限大に近いし細胞内Naの量は小さいから、細胞内から出て行くKイオンについて計算してみよう。細胞内のKイオンは有限だからな。以下の計算は合っているかな?だれか誤りを指摘してくれ。

[ 追記 ] 2015.11.14 在米ポスドクさんが誤りを指摘してくれました。以下に訂正しました。在米ポスドクさんありがとうございます。訂正前は青字でそのまま残しておきます。

細胞の直径を20 μmとして計算するとき、その半径10 μmを10 mm-2とすべきなのに 10 mm-3としたのが誤りの原因です。その他の値も原著に忠実にして、それらしくしたので、少し値が違いますが、大筋はかわっていません。

1回の活動電位が発生すると4.7 pmol/cm2のNa+が細胞内に入り6.6 pmol/cm2 のKが細胞外に出る(Keynes, 1951, http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1113/jphysiol.1951.sp004608/epdf)。これは昔のイカの巨大軸索で実施した放射性同位元素を使った実験のデータだ。これくらいしか根拠がみつからない。NaとKの出入りが1対1ではないじゃん、という議論は別にして、5 pmol/cm2が出入りするとしよう。下記の仮定がいい加減だから有効数字は1桁で計算しちゃうのだ。1 cm2 は 100 mm2したがって以下では、1回の活動電位で 5 ×10-2 pmol/mm2のNaが細胞内に入り、同じ量のKが細胞外に出るとするのだ。

球形の細胞の直径を20 μmとすると、半径は 10μm すなわち 10 mmで 細胞の表面積は4πr2だから4 x 3.14 x (10-)2 = 12 x 10- mm2。イカの軸索の細胞膜のNaチャネル密度が同じだとして計算するのだ。

1個の球形の細胞が1回活動電位を出すと

5×10-2 [pmol/mm2] x 12 x 10 [mm2] = 60 x 10pmol

つまり、6×10-5 pmolのNaとKイオンが出入りする。

1 mol のイオン数は6x1023 個でp(ピコ)とは10-12 だから1 pmol とは6×1011個のイオンになる。

6 x 105 x 6 x 1011 =36 x 106個のイオンが出入りすることになる。

細胞内のKイオンの濃度は160 mmol位だ(2回目の講義資料)。細胞内液 1 L に160 x10-3 x 6 x 1023 = 960 x 1020 個のKイオンがあるということだ。直径20μmの細胞の体積は4/3πr3 だから4/3×3.14×(10-2)3 mm3である。

1 mm3 は 10-6 L だ。細胞の体積 4×10-6 mm3 は 4×10-6 x 10-6 = 4 x 10-12 L だ。

160 x 10-3 x 1023 x 4 x 10-12 =640 x108 個、つまりが細胞内にKイオンは640 x108 個ある。

36 x 106 個 ÷ 640 x108 個 =0.056 x 10-2

0.06% 変化する。

1回の活動電位が発生すると4pmol/cm2のNa+が細胞内に入り同じ量のK+が細胞外に出る(Keynes, 1951)。これは昔のイカの巨大軸索で実施した放射性同位元素を使った実験のデータだ。これくらいしか根拠がみつからない。1 cm2 は 100 mm2したがって1回の活動電位で 4×10-2pmol/mm2のNa+が細胞内に入り、同じ量のK+が細胞外に出るとする。

球形の細胞の直径を20 μmとすると、半径 10μm は 10 mm-3で 細胞の表面積は4πrだから4 x 3.14 x (10-3)2 = 12 x 10-6 mm2。イカの軸索の細胞膜のNaチャネル濃度が同じだとするわけね。

したがって1個の球形の細胞が1回活動電位を出すと

4×10-2 [pmol/mm2] x 12 x 10-6 [mm2] = 48 x 10-8pmol となり

48×10-8pmolのNaとKイオンが出入りする。

1 pmol とは6×1023 x 10-12個のイオンだから(「単位の話」を参照)

48 x 10-8 x 6 x 1023 x 10-12 =288 x 103個つまり約30万個のイオンが出入りすることになる。

 

細胞内のKイオンの濃度は160 mmol位だ(2回目の講義資料)。細胞内液 1 L に160 x10-3 x 6 x 1023   = 960  x 1020 個のKイオンがあるということだ。直径20μmの細胞の体積は4/3πr3 だから4×10-9 mm3である。

1 mm3 は 10-6 L だ。細胞の体積 4×10-9mmは 4×10-9x10-6 = 4 x 10-15 L だ。

160 x 10-3 x 1023 x 4 x 10-15 =640 x105  個、つまり6千400万個のKイオンが細胞内にある。

288 x 103個 ÷ 640 x105  個 個 =0.45 x 10-2 ≒ 5 x 10-3

0.5% 変化する。

別の推測によると「イオンの流出量は軸索内部に存在するKイオンの約1万分の1である」だ。こんなもんかな?

なんか大きすぎるようなきがするけど。おなじようなオーダーだな。

どちにしろ、有効数字が1桁の概算で、1回の活動電位が細胞内のKイオン個数に及ぼす影響はほとんどないだろうで、事実ない。

 

「1回の活動電位で出入りするイオンの量」への10件のフィードバック

  1. 細胞の表面積と体積の計算部分で、
    細胞半径10 μm を1*10^(-3) mmとされているところ、 10^(-2) mmだと思います。
    従って、最終計算結果が体積と面積の次元分だけ1桁異なってくるので、変化率は約0.05%となり、「なんか大きすぎる」という感覚と一致しそうです。

  2. 誤りの指摘ありがとうございます。書き換えました。
    こんな価値があるとは思えないブログを読んでくださりありがとうございます。

  3. 訂正を有り難うございます。
    以前より楽しんで拝見しておりました。

    質問に真剣に取り合ってくれる先生だからこそ、学生さんから良質の質問が出るんでしょうね。コロンバスの和訳を3日3晩考えたクシャミ先生を思い出しました。

    それと、余談ですが、鍵箱は小さい六画レンチか小型のペンチをワッシャーの横から差し込んで手前のワッシャーを保定しつつナットを回して緩めればサラねじが抜けるのではないかな、と思いました。

  4. 2枚のワッシャはφ3mm の皿ネジで、1枚の方にネジ穴を作って固定しています。ワッシャの間にあるナットは4 mmのものですからスペーサーとして使っているだけです。この止めてあるφ3mm のネジの頭は外部に向いていないので、このネジを緩めるのは、ドアのとってを抜かないと無理です。ドアの取手は軸にネジで固定されているわけですが、このネジは鍵箱を取り除かないとアクセスできないです。

  5. あんまり褒められると面映くて、登場しづらくなっちゃいます。六角レンチを変換ミスするくらいのふつつかものです。

    ナットはねじに噛んでいないのですね。納得しました。
    この仕組みの最大の脆弱性は、4桁の数字でしょうね。システマチックに調べれば2、3時間かかりますが、ダイヤルが回しにくそうなので、学生さんは施錠時にわざわざ数字をランダムに戻さないでしょう。回しやすそうな位置(中央の2桁目)を手前方向に2、3した状態になっていると仮定して試せば、数分で開きそうです。
    同じ鍵箱を2つ買ってつけておけば、部外者はどちらの鍵箱に鍵が入っているのか分からないのでセキュリティが高まりますが、見た目が悪いですね。

  6. 何桁あっても、おっしゃるように1桁だけ隣の数字にしておくのが多いですね。自転車のワイヤー鍵なんかそうですね。
    鍵箱2つはいいアイデアですが、場所がない。バッテリー動作の電子錠なんてのがいいのですが、ドアを勝手に改造することになって、始末書ものになるし、許可なんか申請しても出ないですね。

  7.  学生の就職先とかの互恵関係にあるところで、個人認証ロックの導入について長期の信頼性確認試験の実験台を求めているところとかないですかね。
     もし見つかれば、大学の認可も得られやすく、しかも無料で導入できると思うのですが。

  8. ちと、具体的に何を想定されているのかわかなないです。誰が、何のためにどのようなことをするのが、教えていただけないでしょうか?

  9.  指紋、静脈などなどのロック機構では、まだ認証エラーが十分に小さくなっていないように思います。
     比較的少人数で実験台になってくれて、しかも実験の信頼性が高いので、大学が導入を試してみてくれるなら食指が動くメーカがあるかもしれません。

  10. 業界が異なるので、そのような需要がどこまであるのかわかりかねます。
    静脈認証で思い出すのは;大学の学生宿舎に個人認証で玄関のドアを開閉を制御するシステムを導入すべく、入札になったら、某韓国メーカが1円とかで応札して納品したんですね。手のひらの静脈認証システムでした。エラーばかりで、すべての学生宿舎の認証システムが破壊されてしまった という事件です。10年以上前の話です。

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