論文不正の責任者-処分

L さんが紹介(5237. L 2019年03月13日 07:25)した白楽ロックビルのネカト・クログレイ事件データ集計(2019年):日本編を読んで。

このブログでも問題になっているけど、研究不正の責任者はだれで処罰はどうするについて上記のブログ記事を読んで思うところをぐだぐだ書きます。

研究室ボスのプレッシャーによる研究室単位で行われた研究不正–東京大学の加藤茂明事件など–もあるが、殆どの研究不正は個人の資質による場合であると思っている。麻酔医師の藤井事件、旧石器の藤村事件等々は研究者の個人の資質に依存するところが大きい。STAP事件も若山研究室、笹井研究室でほかに論文不正があったわけではないので、研究室単位というわけではないと思う。一部の擁護が楽しんでいるようだが若山氏が不正に関わったとは思えない。若山氏からの「これでは使えない」とかのプレッシャーがあったかもしれないが、これがデータ捏造の教唆とは思えない。そのような発言は研究室内の議論でしばしばあることだし、若山氏研究室で若山氏の発言に由来する研究不正があるわけではないからね。

白楽ロックビル氏は「「不正行為に関与していない」教員を監督責任者として処分するのはとても不思議である。」としている。高温超伝導研究の不正で有名なヘンドリック・シェーンの論文共著者であり研究室の責任者であったバートラム・バトログは不正が明らかにされても処分されることはなかった。一方、よく似た状況であるとしばしば言われるSTAP細胞事件では、共著者である若山氏、丹羽氏が処分されている。笹井氏も生存されていれば処分されたであろう。日本では研究指導者が処分されるのが普通のようだ。京都大学iPS細胞研究所での助教の研究不正は山中伸弥所長が謝罪し、給与一部自主返納したが処分されてはいない。山中教授がノーベル賞受賞者であるし、普段の発言から人柄がしのばれることが影響したのかもしれない。山中伸弥研究室では実験ノートの提出等普通の研究室より不正ができないような対応をしていたようだが防げなかった。この件は一研究者個人の責任とされたとしていいと思う。

さて、研究不正が明らかになったとき、その不正に関与していないが、責任ある立場、あるいは共著者は処分されるべきだなのか?監督責任はどこまであるのだろうか?

このブログで問題とされた早稲田の博士論文審査とはちと話が異なる。こちらは審査制度に不備がある、あるいは運用している教員の意識・資質に問題があることが明らかなので、指導教員=主査が処分されたのは当然かと思う。

上記の「結論ありき」…の雑談コーナーの5232. 傍観者 2019年03月12日 18:13がおっしゃっているが「私の出したデータの真偽についての細かいチェックをPIや共同研究者から受けた事はありません。」というのは共同研究の場合のほとんどの方の経験だと思う。教員ー大学院学生だったら生データを目の前に議論することは当たり前だけれど、教員ーポスドクだと一定でないし、役割分担の決まっている共同研究なら生データを前に議論することは少ないだろう。
若山氏ー小保方氏の場合、若山氏が指導的な立場にあるポスドクなので生データを元に議論が、例えば研究室のプログレス・レポートのような場であったと思われるが、そのとき小保方氏が博論の図を持ってきて酸浴の結果と説明されても若山氏はわからなかっただろうね。これで、責任を負わせられたらかなわないというところもあると思う。桂委員会の若山氏、笹井氏への批判はきつすぎるという気もする。もしこれが早稲田の指導教員だったら過去を知っているので当然なのかとも思う。線引は難しい。

論文の査読者は、その論文にフェイクデータがあるかどうか見抜くことはできないし、事実を結果として記載していることを前提に判断する。結果、不正があっても査読者は罰せられることはない。共同研究者の持ってきたデータも、フエイクであるとは思わないし、これを元に論文を仕上げるだろう。この場合、不正だったら共同研究者は罰せられるのだろうか。そんなことはないだろう。自分のあるいは他の研究費で雇用されているポスドクが不正したらどうだろ?指導している大学院学生が不正したのならかなり責任があると思えるけど、それでも指導教員はフェイクデータと見抜くことができるだろうか?

上記ブログのコメントで 5226. L 2019年03月12日 05:10 さんは「研究不正の問題は、基本的に指導者側の問題である事が、白楽さんのブログで示されています。」とおっしゃっているけど、白楽さんは『「不正行為に関与していない」指導教授にも監督責任を科し処分する。』と事件の隠蔽につながり「結果としてネカトを擁護することになる。」と言っているのであって、指導者側の問題とはいっていないと読んだのですが、ほかに記載があるのだろうか。

研究不正を防ぐために若手研究者に研究倫理教育を施しているのだが、白楽氏が指摘しているように、研究不正を行うのは若手とは限らずむしろパーマネントなポジションにいる教授等のほうが多い。叩きやすい若手に何かをするというのは、現在の多くの若手ポジションが有期雇用になってしまった事に似ている。3〜5年で成果がでたらテニュアにするテニュア・トラックなんて制度をつくったけど、現在の教授以下にも適用すればいいのに。日本の場合、ポストを渡り歩くことが難しい現状があるから、教授でも貢献していなければ、窓際族にするのさ。若手ばかりいじめるんだよね。