浸透圧観察装置

細胞生物学のごく始めに出てくる項目の一つに浸透圧がある。中学の理科で現象を観察させるところもあるだろう。高校の生物では必須項目の一つだ。しかし、あっちの大学1年生にはこの概念がわかっていない。生理学では浸透圧が消化吸収や腎機能で必ず出てくるわけなので実習を行うことにしている。大学なんだから浸透圧の計測を実施したいところだが、そのような機材もない。氷点降下で測定するのは機材も少なくていいが、時間がかかって無理だし、氷点降下と浸透圧の関係を説明したくない。熱力学だからな。浸透圧測定器を購入しちゃう手もあるが、浸透現象を理解するにはほど遠い。理解してから、色々な濃度の液体の浸透圧を測定するのだったらいいが、機械を使うと単なる数字の大小で終わってしまう。実習キットもあるがこれだと非生物学的だ。1セット5万円で最低の12セットとすると60万円も必要だ。そんな経費はない。

やっぱり、生物の資料を使って観察させる方がいい。タマネギの細胞を顕微鏡で観察させて高張液、低張液に曝すのもあるけど、顕微鏡がない。組織学・病理学実習という科目がないから顕微鏡がないのだ。

というわけで、ウズラの卵の卵殻膜が半透性膜なのでこれを使う実習を過去3年間やってきた。最初の1年は実習機材の関係から前任者が行ってきた実習をそのままやったが悲惨だった。実習書の記載が不十分でなんだかわからないうちに時間切れになっちゃう。実習書には溶かす液体が蔗糖となっているが粉のスキムミルクを溶かしていた。なぜスキムミルク?1 ml のディスポのシュリンジに卵殻膜をとりつけて、水の入ったビーカーに割り箸2本を横に渡しその間にぶら下げるという代物だ。管から溶液が溢れ出したらおしまいという実習だ。

20140428osmotic_pressure

こんな風だ。これはキッズサイエンスという小学生対象の実験紹介サイトの写真だ。大学の実習としては、なさけない。唯一、良い点は水が移動するということを視認できることだ。

2回目はディスポのシュリンジは2.5 ml に替え蔗糖を使った。装置も工夫して、といっても装置を作成することができないが、割り箸はあんまりなのでステンレス針金でシュリンジを吊るす装置を作った。しかし、学生は針金を都合のいいように曲げてしまい、いまいちだった。シュリンジには容量の目盛があるので、学生はこの目盛の値を読むことになってしまう。液面の高さの変化を読むべきなのだが。シュリンジの長さが足りないので、オーバーフローしたら実験おしまいというなさけないものだった。3回目は針金で吊るすのではない方法を考えたのだが、制作する機器がないのであきらめて2回目を踏襲した。

ディスポのシュリンジをカッターで切って使うのだが、そのままでは切り口が鋭いので卵殻膜に傷を付ける。これを防ぐために切り口を加熱して角を丸くするのだが、中年Hはそのアイデアを出したのは俺だと主張する。管理者にはそのような記憶がない。管理者自身が、誰に聞く訳でもなく実施することだからだ。中年Hがアイデアを出すとすると、実習に参加してからであるはずで、管理者には切りっぱなしで実習のために用意した記憶はない。最初っからかヒートガンで丸めていたはずだ。予備実習のとき中年Hがコメントしたかもしれないが、そのようなアイデアは中年Hが言わなくても管理者にはある。

本年度は、3年かかってフライス盤と旋盤を導入したので、もうちょっとましなものを作成した。

20140426osmotic_pressure-1

構想は単純で簡単だが、これを15セット作成するのはしんどい。ようやく昨日15セットを完成させた。

20140426plan_fig

これが寸法図。物差しとアルミアングルの寸法だ。スタンドに取り付ける為のステンレス丸棒はφ8 mm でφ4 mm のネジ穴をあけてアングルにはねじ止めした。物差しにガラス管を取り付けるために、パイプ取り付け金具というのを仕入れてきた。φ13 mm のパイプを固定する金具だ。ガラス管は外径10 mm、内径7.5mmの並ガラスを90 mmに切断したものである。ガラス管の方が細いので間に厚みのある両面テープをはさんである。並ガラスだとトーチで切り口を炙って角をなくし、切り口で怪我をしないように簡単にできる。パイレックスのガラス管のほうが割れにくくいいのだが、トーチの加熱ではなかなか溶けない。今回は急いでいたので自分で切って加工する必要があったので並ガラスにした。15セット総額8万円というところだ。

上からガラス管内の液体を注入・除去するためにカテラン針を使う。この針の長さが70 mm だ。物差しから15 mm ほどガラス管を突出させて卵殻膜を縛る部分を作ると、ルアーの部分をふくめると、ガラス管内で針の先端が物差しの0 cm に届く長さを考慮するとガラス管の長さは90 mmになる。液体の出し入れを注射器で行うとするとカテラン針になるのだ.ポリエチレンチューブを注射針に刺したものを作れば長さに制限がなくなる。しかし、ポリエチレンチューブが10 cm にもなると曲がっていて片手での操作がやりにくい。だからストレートな細い管がいいというわけでカテラン針を採用した。カテラン針の先端は切って鈍にする。必ず学生は指に刺すからな。

何か溶けていると水面が上昇する、異なった濃度の液体で液面の上昇スピードが異なるくらいを見てくれればいいという安易な実習だ。1年生の最初の実習はこんなもんでいいだろ。折れ線グラフ・散布図を描かせることも目的だ。指数(対数)関数の回帰曲線を描く学生などでてこないだろうな。折れ線グラフでよしとする。30分の測定時間だけなので仮に指数関数で近似しても誤差はものすごく大きなことになるからだ。

これで、実習がうまくいくようだったら、パイレックスのガラス管を注文して交換することにする。

ガラス管の物差しへの固定が、ガラス管上部のパイプ固定金具だけだ。1点だけなので回転してしまう。とりあえず透明なテープてとめてあるが、これをどうすかが問題だ。ガラス管と物差しは密着させる必要があり、ガラス管下部を固定したとき物差しの目盛が見えなければいけない。今回はガラス管の長さが最適かどうか分からないので調節が可能な状態であるが来年度は何らかの方法でしっかり固定する必要がある。

加工しやすい、透明なので両面使えることからプラスチック物差しを使ったが、耐久性がない。ステンレス物差しに変更したほうがいい。2枚のステンレス物差しを、背面が向き合うように隙間をあけて固定する。この隙間にガラス管の径が半分くらい入るというのをつくったらいいのではないかとも思っている。

あるいはデイスポーザブルのメスピペット(10 ml)の両端を切断して、目盛のある所を使う。目盛は容量 ml だが等間隔に切ってあるので、長さ mm に換算する式を与えれば高さとして読める。固定する方法は別途考える。硬いバネでプラスチック管をはめ込むような形にすればいい。管を完全に覆うようなパイプフォルダは、液面が隠れちゃうからまずい。プラスチックの材質にもよるが接着剤で付けちゃう手もあるな。

ともかくこの装置を使う実験は、学生にとって、これまでやったことのない定量的実験の第一歩なんだけど、定量的に取り扱うのは無理だろうな。