疑惑のテラトーマ

Nature Article

Haruko Obokata1, TeruhikoWakayama, Yoshiki Sasai, Koji Kojima,
Martin P. Vacanti, Hitoshi Niw6, Masayuki Yamato & Charles A. Vacanti,
Stimulus-triggered fate conversion of somatic cells into pluripotency,
Nature 505, 641–647 (30 January 2014)

のテラトーマの図が問題となったわけだ。これまでのネットで出て来た議論等をまとめてみる。その図とはFig. 2 d, e である。

 

図説は  Figure 2 Low-pH-induced Oct4-GFP1 cells represent pluripotent cells.ー略ー
d, Immunostaining analysis of in vitro differentiation capacity of day 7 Oct4-GFP1 cells.
Ectoderm: the neural markers Sox1/Tuj1 (100%, n58) and N-cadherin (100%, n55).
Mesoderm: smooth muscle actin (50%, n56) and brachyury (40%, n55).
Endoderm: Sox17/E-cadherin (67%, n56) and Foxa2/Pdgfra (67%, n56). Scale bar, 50 μm.
e, Teratoma formation assay of day 7 clusters of Oct4-GFP1 cells. Haematoxylin and
eosin staining showed keratinized epidermis (ectoderm), skeletal muscle (mesoderm)
and intestinal villi (endoderm), whereas immunostaining showed expression of Tuj1 (neurons),
smooth muscle actin and a-fetoprotein. Scale bar, 100 μm. と なっている。訳すと;

図2.低pHで誘導された多能性細胞を意味するOct4-GFP1細胞。d、 7日経過したOct4-GFP1細胞の試験管内での分化能の免疫組織化学染色。外胚葉:神経マーカーであるSox1/Tuj1 (100%, n58) とN-カドヘリン (100%, n55)抗体染色。内胚葉:平滑筋アクチン (50%, n56)と brachyury (40%, n55)抗体染色。内胚葉:Sox17/E-カドヘリン (67%, n56) and Foxa2/Pdgfra (67%, n56)抗体染色。校正バーは50 μm。 e、7日経過したOct4-GFP1細胞のテラトーマ形成検査。ヘマトキシリン・エオジン染色はケラチン化した上皮(外胚葉)、骨格筋(中胚葉)と小腸絨毛(内胚葉)を示しており、免疫組織化学染色は Tuj1(神経細胞)と平滑筋アクチンとa-fetoproteinが発現しているのを示している。校正バー100 μm。

方法のセクションでは

In vitro differentiation assays. For mesodermal differentiation assay, STAP cells were collected at 7 days, and Oct4-GFP-positive cells were collected by cell sorter and subjected to culture in DMEM supplemented with 20% FBS. Medium was exchanged every 3 days. After 7–14 days, muscle cells were stained with an anti-a smooth muscle actin antibody (DAKO).

とある。訳すと:中胚葉への分化検査はSTAP細胞は(酸浴してから)7日目に採取されセルソーターで Oct4-GFP陽性細胞を選び、20% FBSを加えた DMEM溶液で培養した。溶液は3日毎に交換した。7〜14日後に平滑筋アクチン抗体で染色した。 

同じように、外胚葉分化検査も内胚葉検査も(酸浴してから)7日後に採取して、その後培養液は違うが何日か(日数は書いてない)培養して免疫組織化学染色(以下、免疫染色)を実施したようだ。

(50%, n56) の意味は専門が違うのでわからない。

e のテラトーマの方は方法では;

10^7の STAP cellsを集めて24時間培養し、4週のNOD/SCIDマウス(重度複合免疫不全マウス:免疫反応で移植片が排除されないためのホストのマウス)の背側面の皮下に移植した。

The implants were fixed with 10% formaldehyde, embedded in paraffin, and routinely processed into 4-μm-thick sections. Sections were stained with haematoxylin and eosin. Endoderm tissues were identified with expression of anti-afetoprotein (mouse monoclonal antibody; MAB1368,R&DSystems). Ectodermal
tissues were identified with expression of anti-bIII tubulin (mouse monoclonalantibody; G7121, Promega). Mesodermal tissues were identified with expression of anti-a-smooth muscle actin (rabbit polyclonal; DAKO). In negative controls, the primary antibody was replaced with IgG-negative controls of the same isotype to ensure specificity.

訳すと;移植片は10%ホルマリンで固定され、パラフィン包埋し、4μm の切片にした。ヘマトキシリンーエオジン染色した。内胚葉であることはafetoprotein抗体で、外胚葉であることはbIII tubulin抗体で、中胚葉であることはa-smooth muscle actin抗体で免疫染色した。(以下略)

STAP細胞であって、STAP幹細胞ではない。STAP細胞は分裂増殖しないからさらに2週間も培養できるのだろうか?細胞分裂なしに増殖なしに分化できるのだろうか?

免疫染色をパラフィン切片で行ったのだったら普通は複数のスライドグラスに連続切片を1枚づつ貼り付け、1枚はヘマトキシリン・エオジン染色(以下、HE染色)へ、もう1枚は目的の抗体で、さらに1枚は別の目的の抗体で...とするのが普通だ。HE染色は病理学での極めて標準とされる染色方法で、組織の形態を観察するのに適している。つまりすでにHE染色の目的は、標準的な組織像というのは教科書等になっているわけで、組織の同定ができるからである。その次の切片を免疫組織化学染色することで、抗原のある部分が組織学的にどこにあったのかを示すことができるわけだ。だからHE染色と免疫染色の図を並べて表示することがスタンダードなわけだ。この論文では、同じ部位の切片を並べていないからなんの意味もない。事実eの右上のヘマトキシリン・エオジン染色の写真はテラトーマではなくホストの(STAP細胞由来ではない動物の)小腸だった(桂委員会報告)。

テラトーマで、この小腸の絨毛のような組織が構築されることはめったにない。だから免疫組織化学染色を行うわけで、このような小腸(内胚葉)独自の形態を作ることができるのなら免疫染色をする意味がないだろう。

中胚葉なら骨格筋様の組織ができることを証明すべきで、何故平滑筋の抗体で染めたのか意味がわからない。

このArticle のpdfファイルをダウンロードし、イラストレータで開くと、図を構成している要素を分解できる。

Fig2e を分解してみた。下段の3枚の図のスケールバーはが白いので緑にしてある。

上段のHE染色の図の中央と右のスケールバーが直線でない。下段の図の切れ目になにやらわからん背景がある。拡大したのが下図である。粗雑なのがよくわかる。下段の3つの写真はなぜか左と中央が分解できない。中央と右の写真の間に、縦の線がある。3つの写真の上辺にも意味のない線がある。

下段の免疫染色の3枚の図は、なるほどパワーポイントの図に加筆したと言われるのがわかる。元の図の文字を黒い帯で隠しその上に新たに同じ文字列を書き加えたのだ。信じられないことをしている。この図はNature投稿前から使っていたので、時間はたっぷりあったはずで、原図から再構築すべきである。原図は早稲田の博士論文のだから3年も経過していてなくなっちゃったんだろうな。だからこんなことをしたのだろう。

この図はどうやら研究室内のプログレスレポートで何回も使いまわされていたようだ。だったら、なおさら、博士論文の骨髄細胞由来であること、酸でなく細いピペットで機械的なストレスを与えたものであることを十分認識していたはずで、うっかりミスとか、ストレスが問題なので酸でない例でも良かったと思ったなどとはいえないだろう。

博士論文(2011.2)の第3章のテラトーマの図だ。こちらはスキャンしたイメージをpdfに変えたものだから分解等できない。この免疫染色図が同一であるとの指摘は11gigen氏のサイトの2014年3月13日木曜日のページだ。

図説を訳すと;図14 骨髄由来のスフェアから得られたテラトーマ様細胞塊。左:betaIII-tublineを発現した神経(外胚葉)、中:desminを発現した筋(中胚葉)、右:AFPを発現した管様構造(内胚葉)。

なせ、HE染色の図は流用しなかったんだろうね?ここでも免疫染色の切片ととHE染色の切片は隣同士ではない。

また、この博士論文の図11は試験管内で培養して3胚葉ができたという図で、真ん中のMseodermがNature論文に流用されたわけだ。

図説を訳すと;図11 試験管内3胚葉細胞への分化検査。骨髄由来のスフェア細胞は、それぞれに適した培養液で培養された。スフェア由来の細胞は3つの胚葉を代表する細胞に分化した。βIII tublineを持つ神経細胞(左)、α平滑筋アクチンを持つ筋細胞(中)、αfetoproteinを持つ肝細胞(右)。

ここまでをまとめると

というわけだ。このネットからの指摘に対し、2014年3月31日の石井俊輔委員会には「2 月 20 日に笹井氏と小保方氏より、修正すべき点についての申し出で」があり「訂正のために提出されたテラトー マに関する画像の作成日の表示は2014年2月19日」の写真が提示されたと調査報告書にある。この報告書と同じく公開されたパワーポイントから作成したpdfファイルには、当初、2014年2月19日に作成された、入れ替えるべき図があったのだが、何故か、数日後に修正され、その入れ替えるべき図がなくなっていた。理研が非公開にした理由はわからない。その修正前のファイルをアップしてある。修正後のファイルは理研のサイトにあるがここにもアップしてある。下図は修正前のファイルにあった、差し替え希望の図である。

ここで、さらに指摘されたのは、試験管内で中胚葉に分化した写真は特許の申請書の70ページ(20枚ある図の17枚目)の図9Aの下の段の中央と同一である。この特許申請は2012年4月24日である。

 

2014年 3 月 31 日 研究論文の疑義に関する調査報告書(石井俊輔委員長) p7 によれば「「実際に、訂正のために提出されたテラトーマに関する画像の作成日の表示は2014年2月19日であった。」とあるので、撮影年月日を改ざんしたわけだ。これだけ図が違うと不正を疑われている状況でまたさらに撮影年月日を改ざんして提出するとはどういう神経なんでしょうね。ちなみに、この特許申請の図との一致は石井委員会で論議されなかった。